「はいはーい、第10回桐青9月に生まれちゃった乙女に捧ぐ生誕祭を開催しまーす」
「第10回…?」
「そんなにやってないよな…」
「回数は準太の背番号より抜粋だす!」
「…………(『だす』って…)」
「…………(何でオレの背番号?)」
乙女に捧ぐ生誕祭
「はいはいっ、誕生日おめでとー。ヤマサンに迅ちゃんに慎吾サン」
「ありがと、。でも何でこのタイミングなの?」
「思い出したからです!!」
自信持って言うなよ…と言うツッコミが、河合と準太の心に木霊する。
と同じクラスの準太は、彼女の行動の素早さに驚いた。
3限終了後、は突然「誕生日ッ!」と叫び、そのまま4限に姿を消して。
部活が始まる少し前までに、ケーキ(ホールで)2個、お菓子推定3000円分、飲み物推定2000円分を部室の机に並べたのだ。
ただ、4限から消えた事に関してはトップシークレットだ。
和サンが悲しむから。
「遠慮なく食べて下さい、ヤマサン!迅ちゃん!」
「、オレは?」
「え、慎吾サンお腹いっぱいですよね?」
「……遠回しにオレを嫌うのヤメテクダサイ」
「そんな事ないですよ、大好きですよ。準太の次くらいに」
「の中の準太の位置がわかんねーよ」
「少なくとも利央よりは上らしいですよ、慎吾サン」
「え、何で?の中の利央って低いワケ?」
「アイツ、この前アタシのプリン一口食ったんですよ…!!」
「…………(プリン如きで…しかも一口で…)」
「…………(あの時利央がボコボコになってた理由って…かよ!)」
「アイツ遠慮ねーもんなー」
「そうなんですよっ!アイツ、クソ生意気にもアタシのプリンを…」
「そんな事で怒るなよ。くだらねーな」
「アイツに食わせるプリンなんて、1グラムもありゃしないわっ!」
「なー」
何でヤマちゃん(ヤマサン)同意してんの?と言うツッコミを、あえて口にする勇者はいなかった。
もくもくとケーキを租借する山ノ井に、ナイスタイミングで紅茶を差し出す。
この2人、何かありそうだ。
でも、誰も訊けない。
何かありそうな2人だから…。
「準太、アンタも食っていいよ。ポッキーなら」
「食い物制限かよ…」
「投手は微妙な生き物だからね!ストロベリーポッキーだけにしなさい!」
「はぁ…(意味わかんねーよ!)」
「あ、和サンはこっちのムースポッキーをどーぞ!」
「あ、悪い、な…(オレはムースかぁ…)」
「和サンにはケーキもサービスします!あ、でもどうかイチゴは避けて下さい!!」
「何で和サンはイチゴ食ったらダメなんだよ」
「オレが食べるから。生誕祭だし」
ひょいっと山ノ井が、河合のショートケーキのイチゴを奪って、自分の口に入れた。
山ノ井につままれたイチゴを凄く切ない目で見ていた河合に気付いてしまって、島崎は悲しくなった。
それに気付いた人は、誰もいないだろう。
ここは勇気を出そう、と、島崎は口を開く。
「ヤマちゃん、イチゴ返し…「あ、慎吾のもちょーだい。その代わり生クリームあげるから」
「…………(このニョキッとした生クリームのみをどうしろと?)」
「ヤマサン、私のは奪っちゃダメですよ!」
「りょーかーい」
「あ、準太!アンタそっちのコーヒーゼリー食う気ね!?」
「ちょ、ま、少しくらいいいじゃねぇか!」
「問答無用!ミルクを渡せ!」
「ミルクだけかよ!!」
「ん?あれ?電話だ」
の携帯に、電話がかかってきた。
「誰から?」
「……利央」
声のトーンが、一気に下がった。
あまりのトーンの違いに、河合はゾッとした。
は仕方なさそうに、電話に出る。
「……現在、電波の届かないところにいるので、早く諦めて下さい!」
『ちょ、サン!それは無いでしょ!!』
「何よ、利央。何か用?」
『サン冷たい…』
「用が無いなら切ります。さよーならー」
『あー!ダメダメ!切らないで!』
「じゃあ何?」
『この前のプリンのお詫びに、新しいの買いました…』
の顔色が変わる。
それを皆、黙って見ている事しか出来ない。
フッ…と、の口端が上がる。
準太が息を呑んだ。
「ンもう、利央大好きー!!」
『え、サン態度変わ…「利央、いい子ー!この前はごめんねー!!」
『あ、いえ…』
「利央を殴ったのも、ホントは愛のムチだったんだから…!!」
「(嘘だ!あの利央の顔の腫れ具合からして、愛のムチってレベルじゃねーし!!)」
『あ、ほ、ホントッスか…?』
「ホントホント!」
「(騙されてるって、利央!やっぱりお前はアホだ!!)」
「お礼に、今度の試合、利央に4番打たせちゃうゾ☆」
『え、ほ、ホントにィ!!』
「ホントホント!」
「(嘘に決まってんだろ!)」
「じゃ、利央いい子にしてるのよー!!」
『は、ハイ!!』
ピッ
「嘘だけど」
その瞬間、部室の温度が下がった。
少なくとも、を抜かして4人はそう感じた。
山ノ井を除いた、4人は。
「利央はホントにアホだねー」
「ですよねー!」
「4番なんて打てるわけないのにねー」
「ですよねー!!」
アハハ、と笑うと山ノ井が、悪魔に見える。
そう思った人は、少なくとも正常な心の持ち主だ。
準太は心の中で、散々からかってきた次期正捕手に心底同情した。
「でも、可哀想だから明日プリンでもあげよーかなー」
「利央喜ぶよー。でもプッチン以外はオレが許さないよ」
「私だってプッチン以外あげませんよー!」
「だよなー」
今度焼きプリンくらい買ってやろう。
島崎は初めて、利央の喜ぶ事をしてやりたいと思った。
と山ノ井以外の空気が、完全に冷たくなってきた、その時。
「すみません、もう帰っていいッスか…」
本日初めて発言した迅の言葉は。
誰の心にも重くのしかかったのだった。
桐青9月の生誕ラッシュをお祝いしたくて書いた小説…な、はず。
山ノ井さん大好きなので、必然的に出番が多くなっちゃいました…すみません。
因みに利央が凄く可哀想になっていますが、ちゃんと皆は利央好きなんで、大丈夫です。
そして私もちゃんと利央好きですから!大好きですから!(主張/そして虐めてごめんね…)
3人まとめてだったので、どのタイミングでアップするか悩みましたが…。
「何でこのタイミングなの?」の発言もあったので、慎吾サンの誕生日が過ぎてからにしました。
(そして迅を喋らせないのに必死でした/笑)
桐青で、というよりおお振りでギャグなのは…初めて?
何か微妙になってしまった…。
とにかく、ヤマちゃん、迅、慎吾サン、お誕生日おめでとうっ!!
※ 因みに色解説
準太
河合
島崎
山ノ井
迅
利央