『彼氏がいるって、幸せなんだよ』

そんな事言われても、その良さが全然分からない。


『友達じゃなくて、彼氏にだけ言いたい事が、出来るんだよ』

そんなの、彼氏がいないんだから分かるわけがない。



『彼氏いいよー、彼氏』



「だから何だって気がするよね、水谷君」

「……らしいねー…」








ホント、彼氏って何がいいんだろう。
だって、彼氏彼女の関係じゃなくても、こんなに近くに居られるのに。

例えば、今目の前に居る水谷文貴君。

小学校から一緒で、何回も同じクラスになった事がある。
高校も偶然同じ学校を受験して、一緒に入学届けを出しに行ったりした。

よく高校からの友達に「付き合ってるの?」と言われるけど、そんな関係ではなく。


“友達”として、ずっと仲良くやって来た。



「水谷君は、私と仲良くしてくれるもんね」
「うん、だしね」

「なんかこう、彼氏関係なく、水谷君大好きだけどな、私は」













彼氏じゃなきゃダメなんだって!

「大好き」は嬉しいけど、彼氏じゃなきゃダメなんだって!!


友達じゃ、阿部でも花井でも篠岡でも、皆同じラインじゃん。
オレはそのラインを越えた、の特別…“彼氏”になりたいんだって!

でも、がこの調子じゃ、オレの長い長い恋も実る気配がまるでない。

あーあ、オレってホント可哀想…。



「水谷君?」
「んー?」

「水谷君は、彼女とか欲しくないの?モテるでしょ?」



残酷な事言わないで!!!

そりゃ、結構中学の時とか女子にちやほやされたよ。
高校でも、ぶっちゃけ結構ちやほやされてますよ。

だけどオレはが好きなんだって!
以外、考えられないんだよ…自分でもビックリするくらい。

実はオレ、一途なんだよなァ…。


今日だって、オレの誕生日って事を伝えたくて、に思い切って一緒に飯食おうって言ったのに。
こんな喋る前から線引きされたら、オレ、話せないじゃんか。

あ、でも、これってチャンス…?

チャンスじゃないかもだけど、チャンスにしたらいーかも…!?





、オレ、今日誕生日なんだけど!」
「そうなの?おめでとう、水谷君」
「で、で、で、オレ、プレゼント、欲しいんだけど!!」
「え…私あんまお金ないんですけど…。でも、水谷君なら、奮発しちゃおうかなー。お世話になってるしー…」

「オレ、か、彼女が欲しいッ!!!」





……空気が、止まった。

や、やっぱちょっとゴウインすぎた?
でも、この超絶鈍感なうえに、男子友情思考なに、オレの想いを伝えるにはこれしかないんだって!!

は、ポカンとしたままこっちを見ている。

たっぷり1分こっちを見てから、ニカッと笑って口を開いた。





「水谷君、申し訳ないんだけど、私の周りの女の子は殆ど彼氏持ちなんだよー」





……つ、通じてないし…。

確かに「彼女欲しい」って言ったよ。
が欲しい」って言ってないよ。
だけど、その解釈なくない?

えーいっ、こうなったら腹をくくるんだ文貴!

思い切って言ってしまえ!!





「オレは、が好きなんです。どーかを彼女としてオレにください」












は?え、何コレ…何この展開…。

だって、水谷君は仲のいい友達で、大好きで。
今日は水谷君の誕生日で、プレゼントが欲しいって言われて。
水谷君には今彼女が居なくて…?

…私が、好き、だって……!?



「ちょ、何言ってるの!水谷君っ!?」
「何って、オレの気持ち…」
「ば、罰ゲームっ!?罰ゲームで言わされてるなら、早いトコ皆に謝ってきた方がいいって!」

「違うよ!オレはがマジで好きなんだって!中学ン時から、はっきり自覚したんだよ!!」



………ホントですか?

え、え、え、ちょっと待って。
何コレ、こんなラブコメ的展開、私には無縁じゃなかったの!?

な、何…私は水谷君が大好きで、友達で。
水谷君は私が…す、す、好きで、彼女になって欲しいって。
さ、さっきと言ってる事変わんない…私、完全にテンパってる……!!



「あのさ、ちょっとオレ、マジなんだけど」
「は、はぁ…」
「だからオレ、さっきが言ってた彼氏の良さっての、ちょっと分かる気がするよ、マジで…」
「え?…んんん?」

「だから、オレは…が彼女だったら幸せだと思うし、友達じゃなくてだけに言いたい事とか沢山あるし…」



と、友達が言ってた事と同じだ…。
じゃあ、ホントにホントの、水谷君はホントに、私を好きって想ってくれてるって事…?

わ、私はどうだ。
水谷君の事は好き。
好きだけど、彼氏とかそう言う…………アレ?


私、これなんで水谷君に相談してるんだっけ?

友達に言えばよかったんじゃないの?

水谷君にお昼一緒に食べたいって言われた時も、結構嬉しかったよね?

それは友達だから、大好きな友達だから……ん?

水谷君は、大好きな友達。
だけどもしかして、それだけじゃないのかも……。





はさっきオレの事、好きって言ってくれたよね」
「う、うん…」
「それは、友達として好きって事?」
「そ、そのつもり、だったけど…」
「“つもり”って?」

「だ、から…その、私はこの事を女友達に相談せず、水谷君だけに話したわけで、他の友達に話そうとしなかったわけで…」
「………………」
「だからこれは、もしかしたら、“友達”に話したかった事じゃなかったのかもしれなくて…」

「それって…」


「わ、わ、私は…水谷君が、好き、って…事になるの、かなぁ……?」













真っ赤になって首を傾げるが、可愛くて仕方ないっ!!

ホントだったらもう抱き締めちゃいたいとか思うけど、そこは我慢だ、文貴。
でもなんかもしかして、オレ、脈有りってやつ…?

とりあえず、思い切って核心に迫るべき、だよな…?





は、その…オレと付き合うとか、イヤだ?」





の目が泳いだ。
も、もしかしなくとも、これは…オレ、喜んでいい…?

よし、ここでもう一押し、一押し……。





は、オレの誕生日プレゼントになってくれたりしちゃいますか…?」





オレの心臓が、激しく鳴ってる。
昼休みの喧騒が、まるで聞こえない。

が声を発するまでの時間が、嘘のように長く感じる。

膝の上で握った拳が、震え出しそうだ。





「わ、私、わかんないよ…?」
「……?」
「水谷君は友達だけど、友達とは別で話してて…その、自分で言っててわけわかんない感じなんだけど…」
「そ、それは、オレを友達以上に想ってくれてるって事で、いい、の…?」
「だから、その…頭ン中ぐちゃぐちゃで…で、でも…その……」
「う、うん…」

「み、水谷君のプレゼント…さ、差し上げ、ます…」





俯くを見て、オレはもう我慢出来なくなって。
真横に座ってるを、思い切り抱き締める。

あー、コレ、マジでやりたかったんだよ…オレの望んでた事だよ……。






「うっ!?う、うん…」
「プレゼント、頂戴しました」
「は、はい…」
「もう一つ、ワガママ言っていいですか…」
「か、叶えられる事なら…」
「“文貴”って、呼んでください」

「ふ、文貴…」





















あぁ、幸せってコレだよ!
オレ今、すっげー幸せだよ!!

を好きになって4年目の誕生日に、初めて。


水谷文貴、本当に欲しいモノを手に入れました。







文貴、おめでとう夢です…。

多分今まで書いた文貴の中で(連載も含めて…)、一番文貴っぽい気がします。
くすぐったい感じの、いかにも思春期!って感じの可愛い話を書きたかったんですが…撃沈です。
(あ、文貴は中1くらいから主人公を好きになり始めてた設定です…だから4年目です)
こう、恋とか友情とかその区別がつかないとか…ありがちな感じしませんかね?
そんな主人公にたじたじな文貴…書いてみたかったんです…。

あんま祝った感じないですが、とにかく文貴おめでとう!

08/01/04  東 雲


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