好きなのに、好きなのに。


本心が見えない彼の事を、大嫌いになりたかった。










涙で滲んだ愛の唄










は泣かない子だよね。

そう言っていたのは、お母さんとか、お兄ちゃんとか。
親友のも、は強いって言ってくれた。


でも、そんなの嘘だって。


私はいつも、一人で泣いているよ?
誰も知らないだけで、本当の私は泣き虫だ。
おばあちゃんが死んだ時、大切なコーヒーカップを割った時。

そして、こうして文貴が頑張ってる時。

付き合ってるはずなのに、何も出来ない私。
そんな自分が腹立たしくて。
そして何も言わずに笑っている文貴に、不安を覚えて。


教室から見える夕陽が、私の涙を静かに照らす。





「言わなきゃ、いけないのに…」





文貴の練習が終わるのを待つ勇気が無い。

文貴に伝える勇気も無い。


私は、教室を離れた。






++++++






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From 水谷文貴
Sub 遅いけど
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今から外出れない?
練習終わったら、公園で待ってる。
帰りはちゃんと送るから!
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文貴からのメールを、返信したくなかった。

開くのすら、怖くて躊躇したのに。
開いたら開いたで、会いに行かなきゃいけない。

『待ってる』と言う文字が、私を動かす。



「文貴、なんで…」



このタイミングで、私を呼ぶかなぁ…?





++++++





「あ、来たー」



私の家から走って3分の公園で、文貴は滑り台の上で待っていた。

いつも通り、私を見ると笑ってくれる。
その笑顔が好きで、私は文貴に告白した。
でも、今はその笑顔が不安だった。

無償で与えられる優しい笑顔が、私を不安にした。



?」
「………う、ん。来た…」



文貴が、滑り台を滑り降りてきて。
動けないままの私を気にせず、近付いて来た。
まともに文貴の顔が見れず、私は下を向いたまま。

そのまま、私の右手は文貴の両手に包まれた。



「最近、一緒に帰れなかったら。久々にちゃんと2人で会いたくて、夜遅いけど呼んじゃった」
「うん…」
の教室行くと、巣山とか栄口いるからなー。2人きりで喋れないからさ」
「そう…だね…」



久々にちゃんと文貴と向き合って。
今、私凄く緊張してる。

顔をあげると、文貴の笑顔が僅かに曇っていた。





、オレの事嫌い?」





文貴の言葉に、息を呑んだ。

違う、違う、文貴が嫌いなんじゃない。
嫌いになりたくても、嫌いになれないよ。

だって私、文貴好きだもん。





「嫌いじゃないよ…」

「だって、オレと別れようとしてたでしょ?」





違う、と呟いた声は、小さすぎて文貴には届かない。
いや、届ける事が出来ない。

別れようとした事を、否定出来ないから。



、最近オレの顔見ると悲しい顔するんだよね」
「そんな事、ないよ…」

「そんな事あるよ。オレ、の事ちゃんと見てるから分かるよ」



文貴は、私を見てるんだ。
私もちゃんと、文貴を見てるはずなのに。

私の手を握る文貴の手が、強くなる。





、オレ、ダメかな?」

「ちゃんとの事、見てなかった?」

「もっとに出来る事があるなら、オレ、ちゃんとやるから…」




文貴の笑顔が、崩れた。
泣きそうな文貴は、懇願するように私を見ている。

違う、嫌だ、ダメ。

文貴に、そんな顔をさせたくない。





「……私、文貴、凄く好きなんだよ…」





搾り出した声に反応して、文貴の手の力が僅かに緩んだ。

別れる事以外の道を、私に選べる事が出来るなら。


今、文貴に本音を伝えるしかない。





「文貴、いつも、私に笑ってくれて…」

「私、文貴に何も出来なくて、役に立たなくて…」

「でも、文貴、凄い笑ってくれる…」

「何か、申し訳なくて…でも、文貴が好きで…」


、間違ってる」





文貴が、私の言葉を遮るように口を開く。
そのまま文貴の顔が近付いて。

文貴と私の額が、こつん…と触れ合う。





はオレの彼女」

がいてくれるだけで、オレは嬉しいの」

「寧ろ、がいないだけで、オレ、絶対ダメになる」


、オレを好きでいて?ね?」





涙声で、うん、と言った私の声は、文貴に届いたかな?


文貴の顔が近付いてきて、キスされる寸前に見えた文貴は。

いつも以上に優しく、そして温かい笑顔を浮かべていた。






++++++






、今度お昼一緒に食べよ?』

『うん、一緒に食べよう』

『帰り待ってて貰うのは…さすがに悪いし。夜遅いし』

『何で?文貴が待ってて欲しかったら、私、待ってるよ?』

『嬉しいけど…やっぱダメ。オレが不安』

『?』

『だって夜遅いのに、一人で待たせるなんて、オレ嫌だ』

『……文貴が、そう言うなら…』



『………でも、たまにはこうして、手とか繋いで帰りたいかも』

『そう、だね…こうして帰るの、いいかもね』









左手に感じる、文貴の体温

握り返してくれる度に、存在を感じられる



本当に、本当に、幸せで



この先も、私の傍で、文貴が笑ってくれますように…












中編になりそうなのを、必死で堪えました…(汗)
何でこう、上手く(小説の長さを)調節出来ないかなぁ、私は…。

えー、とりあえず、文貴です。
初文貴の癖に、やたら暗めの話になってしまいました…すみません。
何かもう、必死で最後ハッピーエンドにした感じです(苦笑…)

文貴は優しい子だと思います。
だから、彼女をとっても大切にすると思うんですよ。
ぽやぽやした笑顔で、包み込んでくれる…はず。
文貴視点も書きたいなぁ…。


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