「あ、元希さん。こんにちは」
「じゃねーか。どうしたんだよ」
「隆也を迎えに来たんです」
そうやって、はいつも幸せそうに笑う。
そんなの笑顔が好きなオレは、ただのバカだと思う。
その笑顔はタカヤに向けられてるモノであって、オレに向けられてるワケじゃない。
それでもオレは、が好きだった。
勿論、“タカヤの事を話す”は嫌いだったし、“タカヤに笑いかける”も嫌いだ。
だけど、何故かオレは“タカヤの話をするの笑顔”に惚れていた。
自分でも、すげー厄介だと思う。
オレもの幼馴染だったら、同じ学年だったら、の笑顔が向けられてたのかもしれない。
ある冬の曇った日。
オレは武蔵野第一に入学が決まって、シニアに顔を出すのもあと少し。
いつものように、はシニアに顔を出していた。
タカヤがシニアに入ってから、ずっと顔を出している。
オレがシニアに入る前から、簡単な仕事は手伝えるようになっていた。
でも、その日は様子が可笑しかった。
目ではタカヤを追ってるのに、タカヤと目が合った途端、は極端に目を逸らしている。
は泣きそうな顔で俯くし、タカヤはタカヤで不思議そうな顔をする。
「オイ、タカヤ」
「……なんスか…」
「お前、となんかあったワケ?」
「……こっちが聞きたいッスよ」
この様子からすると、どうやら可笑しいのはのほうだ。
タカヤはいつも通りオレの球を受けてるし、特に変わった様子も見受けられなかった。
の泣きそうな顔を見る度に、オレのほうが辛くなっていった。
「元希さん」
練習が終わった直後、オレはに呼び止められた。
ただ挨拶するだけじゃなく、ちゃんとオレを呼び止めたのは、この日が初めてだったのかもしれない。
「どうした、」
「あの…今日、一緒に帰っちゃダメですか?」
「……別に、オレは構わねーけど…」
はオレに「お願いします」と頭を下げて、その場を離れた。
こんな事を言い出すなんて、本当にその日のは何もかもがいつもと違っていた。
と一緒に帰るなんて事はなかったから、それはそれで嬉しかった…けど。
が、敢えてタカヤと帰る事を避けていた…つまり、タカヤと何かあったんだ。
「、お待たせ」
「すみません、無理言って…」
「いや、全然」
「あの、わ、私の話を、聞いていただけませんか…?」
突然の申し出だった。
オレは黙って頷いた。
隣を歩いていたの顔を見ると、やっぱりまた泣きそうな顔をしている。
そんなの表情を見てると、オレは凄く苦しくなる。
「隆也、が…好きな人、いるみたい…なん、です……」
ゆっくりと紡がれた言葉に、オレの頭に…言いようの無い衝撃が走った。
がタカヤを好きなのは知っていた。
でも、改めて言われると、思っていたよりその衝撃は強い。
しかも、の失恋まで、
「私、隆也の事…昔から凄い、好きで…」
「…………あぁ…」
「隆也の傍に、いられたら…それだけで、いいと思って、て…」
「……あぁ………」
「で、も…隆也の傍にいたら、私は、じゃ、邪魔、で…」
「もういい、」
オレはを思い切り抱き締めた。
の泣き顔は、見たくない。
オレは笑っているが好きだ。
笑ってるが好きだ、だから…
「、武蔵野に来いよ…」
「元希、さん…」
「オレが、の事…武蔵野で、待ってる…」
好き、とは、言えなかった。
元希さん中編です…うぅ。
榛名視点なのに、全く元希さんじゃないです。(ごめんなさい)
語ってる部分は、やけに頭が良さそうな元希さんに仕上がってます…(笑)
榛名の片思い的な感じにしてますが、これから色々波がある(予定な)んです。
涼音先輩の事とか出したり、秋丸君とか喋らせたいなァ…って考えてます。
実は、ずーっと前に書いて、書き途中だった榛名中編を捨て、こっちを書いてます。
物凄く切ない感じになってますが、最後はハッピーエンドの予定です。
最後までお付き合い下さい!
08/01/06 東雲