武蔵野第一の野球部は、それなりに居心地が良かった。
オレの要望も聞いてくれるし、設備はそれなりだし。

何より、オレは入部してから、宮下先輩でいっぱいだった。

優しいし、オレを認めてくれたし、凄くいいマネジだった。
でも、宮下先輩にはもうとっくに相手が居て。
何処かで罪悪感を抱きながら、勝手に恋して、勝手に失恋した。

正確に言うと、憧れ、だったのかもしれない。



オレは、が好きなんだ。

高校に入って、宮下先輩に出会って。
オレは正直、1年の夏が過ぎるまで、の事は忘れようとしていた。

「武蔵野に来い」なんて、勝手な事を言いながら。
心の何処かでは、“どうせまたタカヤと同じ学校に行く”と言う思いが強かったからだ。
だからと言って、目の前にいる都合のいい人しか見なかったオレは、最低だと思う。

1年の夏が過ぎて、気持ちの整理がついて。
そうしてまた、への想いが強くなって。


は、何してんのかな。

高校は、何処へ行くんだろう。

やっぱり、タカヤと一緒だったりすんのかな。



そして春が来て、オレは目の当たりにする事になる。



武蔵野第一高校の制服に身を包んだ、の姿を。























「榛名ァー。なんか最近、やけにソワソワしてない?」
「んだよ、秋丸。いちいちうるせーな」
「何だよ、その言い方!榛名も少しは集中しろよ!!」



オレは漠然と、は野球部のマネジになるんじゃないかって思ってた。

だからわざわざ会いに行かなくても、オレはと会えると思っていた。
でも、4月の中旬を過ぎても、オレがに会う事はなく。
をグラウンドで見かける事もなく、時間は過ぎていく。

漠然とした、でもとても大きな不安が、オレを襲う。

チラチラとフェンスの向こうを見ても、はいなかった。
でも、それでもオレはフェンスの向こう側で、を探していた。

シニアの時みたいに、また、明るい挨拶をしながら、入ってくるんじゃないかって……この日までは。





「っ!!」

「ちょ、オイ、榛名!!」





まさか、と思った。

でも、確かにそこにいた。
近くにいたはずなのに、なかなか見つけられなかった。

を…





!」

「も…は、榛名、先輩……」





入学式があってから、十数日も経ったその日。
は、野球部が練習中のグラウンドを覗いていた。
オレは練習中にも拘らず、のいるフェンスに走り寄った。

でも、そこにいたは、昔のじゃなかった。

オレを「元希さん」と呼ばず、「榛名先輩」と呼んだ。



…」
「お久しぶり、です…」



どこか余所余所しいに、オレは違和感を覚える。
昔みたいな、明るいはそこにいない。

タカヤの話をしてるのほうが、まだマシだ。

目の前のには、オレの好きだった笑顔が…まるでなかった。



「な、中、入らないのかよ」
「私が入る理由なんて、ないですから」
「だってお前、シニアの時、いつも…」

「別に、野球なんて…」



そう言って、は俯く。

が、“野球なんて”って言うなんて。
オレがいない間、に何かあったのか?
やっぱ、タカヤが原因なのか。

突然の再会、そしての変貌ぶりに、オレは言葉が続かない。



「榛名、向こうで秋丸呼んでたよ!」
「宮下先輩…」

「あ、もしかして…えと、ちゃん、だね?」
「ま、マネジの…涼音、さん…?」



宮下先輩の視線が、に注がれた。
名前を呼んで、親しげに話し出す2人。
オレは展開に、全くついていけない。



「あ、あの…」
「榛名、ちゃんの知り合いだったの?」
「宮下先輩、は…?」
ちゃん、学校見学の時、よくこのグラウンド覗いてたんだよねー。秋丸が教えてくれたんだー」



にっこりに笑いかける先輩。
そして、それに対して、にっこり笑顔で返す

が、見学に来てた…?

オレは、何でそれに気付かなかったんだ…?

そしてすぐに宮下先輩は、キャプテンに呼ばれた。
先輩はオレに「早く練習に戻りなさいよ」と声をかけて、走って行った。

取り残されたオレは、目の前のになんて声をかけたらいいか、分からない。

何か言おうと、口を開いた瞬間。





「私、きっと自惚れてました」
「………?」


「先輩が『武蔵野に来い』って言ってくれて…凄く嬉しかったんです」

「私は隆也が好きで、でも、榛名先輩が言ってくれて…隆也から離れる決心出来たんです」

「だから、此処を受験しようって決めたんです…でも、グラウンドを何回か見学して、すぐに気付きました」


「榛名先輩は、涼音さんが、好きなんですよね…」
「……、それ、は…」


「涼音さんを見ている元希さんを見て、私、気付いたんです」


「……私は今、元希さんが、好きです…」







何でオレは、何も言えないんだ。








自分の文才の無さに泣けてきます…空回り……。
何て言うか、こう…分かりますかね?目の前のものに縋りたくなる榛名ってのが書きたくて…。

遠距離恋愛だった恋人同士が、うっかり浮気しちゃう、みたいなやつです。
この文章だと、榛名がただあっちにフラフラ、こっちにフラフラな奴になってますが。
こう、思春期にありがちの、目の前の素敵な先輩に心踊ってしまうやつです。
(あんまそういう経験なかったので上手く言えませんが…)

逆にヒロインのほうもありがちな、好きって言われた瞬間に好きになっちゃう感じのやつです。
好きって言われたら、心動いちゃうじゃないですか…ははは。

とにかく、今回のはホント上手くまとまらなくて…そのうち修正入れるつもりです(汗)
あと1〜2話続く予定です…こんな酷い話ですが、お付き合い下さい…。

08/01/16  東雲 遙夏

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