― 先輩が『武蔵野に来い』って言ってくれて…凄く嬉しかったんです

オレはその時、純粋に、をタカヤから解放出来たら…って思ってた。


― 私は隆也が好きで、でも、榛名先輩が言ってくれて…隆也から離れる決心出来たんです

は、オレの言葉で変わってくれたんだ。


― だから、此処を受験しようって決めたんです…でも、グラウンドを何回か見学して、すぐに気付きました

オレはどうして、に気付けなかったんだ。



― 榛名先輩は、涼音さんが、好きなんですよね…

オレは弱いから、目の前の都合のいい人に縋っていただけだ。



― 涼音さんを見ている元希さんを見て、私、気付いたんです

タカヤを見てるを見て、オレが気付いたように。



― ……私は今、元希さんが、好きです…

オレだって、ホントは、ホントは…


















近付いたはずの、オレとの距離。
いや、実際は全然近付いた訳じゃない。

寧ろ、オレが離したようなもんだ。


裏切ったのは、オレだった。
目先の人に捕われて、自分がホントに想ってた人を間違えて。
は、それに気付いてた。
オレの気持ちの変化に、気付いていたんだ。

人の気持ちが変わる事なんて、珍しくも何とも無い。
が今、オレの事を好きなように。
オレが、宮下先輩に憧れたように。

でも、オレのは違う。

楽な方に逃げただけだ。






++++++






屋上でサボるのは、得意だった。
授業が面倒臭い時は、こうしてよくサボる。

屋上に寝転がって、空を見上げて。

いつもなら何も考えずに、雲の流れを追ってるのに。
今日はの事しか、考えていない。


不意に、屋上の誰か入って来た。
教師かと思って、慌てて身を隠す。

予想と違う、聞こえてきた声に、オレは息を呑む。



さんが榛名の知り合いだったなんて…びっくりだよ」
「私も、秋丸先輩が…榛名先輩の中学からの同級生だなんて、凄く驚きました」



秋丸と…
2人して、授業サボって…何やってんだよ。

オレは息を顰めて、2人の会話に集中した。



さんは、マネジとかやんないの?野球、好きなんだよね?」
「好きなんですけど…ちょっと、此処では遠慮したいかなーって思ってます」



やっぱり、野球は好きなんじゃねーか。



「そもそも、なんで野球好きになったの?」
「幼馴染が、野球大好きで。シニアやってて…私もよく観に行って、それで好きになってったんです」
「そっかー。あ、もしかしてその幼馴染って、“タカヤ”だったりする?」
「え、隆也を知ってるんですか…?」
「榛名が一時期、タカヤタカヤって煩かったからね」
「そうなんですか…」



暫く、沈黙が続いた。
2人の間に流れる空気は、あくまで穏やかなままで。

盗み聞きしてるオレの方が、よっぽど緊張していた。

そして、がそっと目を伏せ、口を開いた。





「私、隆也が好きだったんです」

「うん」
「でも榛名先輩に『待ってる』って言われて…私の事を待っててくれる人が居るって、安心して…」
「うん」

「私は隆也の事しか見えてなくて、勝手に傷付いて…」
さん…」


「ちゃんと周りを見る事が出来て、初めて…隆也への気持ちも、整理できたんだと思います…」





は、笑った。
あの頃と同じように、笑った。

もう、タカヤの話題じゃなくても、綺麗に笑うようになっていた。


は、オレと逆だった。

宮下先輩しか見る事が出来なくなったオレとは対照的に、は視界を広げたんだ。
が視界を広げたお陰で、の視界にオレが入った。
オレは…目先のモノに手を伸ばして、離れていたの事を、見なくなっていた。



「榛名は…」



突然出てきたオレの名前に、ドキッとした。
秋丸、何を考えてんだよ。



「榛名は、バカだよ。すっごいバカ。だから、目の前の事しか見えない、不器用な奴だよ」
「……秋丸先輩…?」
「きっとその様子だと、さんは榛名に傷付けられた…違う?」



自信満々に言い切った秋丸は、何故か笑ってる。
は一瞬戸惑ったものの、困ったように笑って首を傾げる。

オレの心は、ただ、痛い。





「榛名はバカだから、今頃きっと後悔してる」

「だから、もう一回だけ、チャンスをくれない?」


「そこにいる、バカに」





え、と思った瞬間、上履きが飛んできた。
オレは上手くキャッチ出来ず、上履きはそのまま、オレの頭に直撃した。

上履きには、男子にしてはわりと丁寧な字で、“秋丸”と書いてある。





「盗み聞きなんて趣味悪いぞ、榛名」
「なっ、おまっ…!」
「ほらほら、上履き返して。3限からは、ちゃんと授業に出るつもりだから」
「テメェは…人の事散々バカ呼ばわりしやがって…!!」
「ホントの事だろ?でも、感謝しろよー」


「榛名、先、輩…」

「………」


さん、ごめんね。あと少しだけ、このバカに…榛名に付き合ってやってね」








人をバカ呼ばわりして、勝手に2人きりにして。

ふざけんなよ、秋丸。


でも、どーも、な。







やっと動かしかしました…(汗)
2ヶ月ぶりの更新になってしまいました…。
バカ可愛くもない、ドSでもない、普通の榛名ですね(笑)

秋丸君は使い勝手がいいですね(笑)
このサイトの話は、こう言う繋ぎ役を多用してますよね…。
でも、まだ落ち着かない展開に、自分でも泣きたいです…(沈)

次くらいで終わらせたいです!(切実)
幸せな展開に持っていきたいです…。


2008/3/25
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