「は、い…」

「あのさ、お願いがあんだけど」





今日、初めて、密かに気になっていた本山裕史君に話し掛けられました。













   











それは、なんて事ない水曜の4限が終わった時。

芸術科目は音楽を選択していた私は、美術を選択しているを迎えに行こうと思っていた。
やっとお昼休みという事もあって、意気揚揚と片付けをしていた。
再来週は歌のテストで、自分で選曲した歌を、自由なカタチで歌うらしい。
私も、自分は何を歌おうか…そんな事を考えていた。

そして、本山君が現れたのだ。










「えーっと…私?」
「そーだって。に話し掛けてんだから」
「え、えと、な、何?」

「今度の歌のテスト、に伴奏してほしいんだけど」



私の身体が、ぐらりと傾いた。

今、こうして本山君と喋ってる事すら奇跡みたいなものなのに。
まさか、私が、この私が。
クラスでは地味の代名詞みたいな存在で、男子とも殆ど喋らないような私が。

本山君の、歌の伴奏なんて…。



?もしかして、無理?」
「いや、無理じゃないけど…。で、でもほら…ピアノ弾ける子なら、誰でもいいんじゃ…」
「まー他でもいいのかもだけど…オレはに頼んでんだけど?」



か、神様ッ…!!

嬉しいような、でも凄いプレッシャーな…。
断る理由はないけど、でも、引き受ける自信がない…!!
どうしようかぐるぐるしてたら、本山君にプリントみたいな紙を渡された。



「…コレ……?」
「楽譜。オレ、それ歌うつもりだから」



恐る恐る開けてみると、哀しいかな音符の羅列!!
譜読みが苦手な私としては、途端に自信をなくしてしまう。



「あ、の…本山君、その……」
「頼んだぜ、。月曜の昼休みにでも、一回合わせてみようぜ」
「え、や、本山く…」

「そんじゃ、な」



遠ざかって行く本山君の後姿。
山ノ井君と並んで、音楽室を出て行くのを、私は黙って見送っていた。





「ど、どうしよう……」














「よかったじゃん、本山と2人きりで練習なんて」
「よ、よかったかも、だけど」
、本山気になってたんでしょ?チャンスだよ、チャンス」
「そんな、チャンスってほどのもんじゃないよ…」



幸い本山君はいつも、昼休みは山ノ井君と外でキャッチボールをしている。
話を聞かれる心配は無いから、昼休みに早速に相談した。

唐揚げを口に運ぶは、いたって冷静だ。
は普段からクールで、ドキドキしている私とは違って、冷静に話を進めていく。



「なんで?普通にチャンスっしょ?」
「いや、そうかもだけど、その…私、月曜までに伴奏完成させなきゃだし…」
「気合だよ、気合。死ぬ気でやれば、どうにかなるんじゃない?」
「う…死ぬ気で……」
「頑張りなさいよ、。本山の期待を裏切らないようにさ」





の適当な励ましにより、私はその日から、死ぬ気で練習をした











++++++










月曜日。

憂鬱な気持ちで、4限が終わる。
どうしよう、凄く逃げたい。
“本山君が忘れてるかもしれない”という、淡い期待さえ抱いてしまう。







……その期待も、一瞬で消え失せてしまった。
先に教室の外に出たらしく、私のほうを見て手招きしている本山君。
キョロキョロ見渡してを探せば、ニッコリ笑って私に手を振る

私の逃げ場は、何処にも無い。


大人しく楽譜を持って、本山君の後ろを歩く。



ってさー」

「え、あ、はいっ!?」



本山君が、前を向いたまま口を開く。
慌てて、小走りで本山君の隣に行った。

彼は、少しだけ、笑っていた。






「……いや…」



















「んじゃ、早速オレ、歌ってみるから」
「うん。出だしは本山君の好きにしていいよ。息を吸う肩の動きを見て、それに合わせて伴奏入れるから」
「わかった」



暗い旋律だけど、どこか柔らかく、そこには優しさがあった。

決して声楽家のように上手いわけではないけれど。
本山君の歌声は、何処までも澄んでいる。

よく、耳に通る声。

意識しなかったわけじゃないけれど、改めて本山君の声を意識した。
低音は重く、高音は突き抜けるようで。

いつまでも、聴いていたい歌声だった。


私も伴奏を弾きながら、一緒になってメロディだけ口遊んでいた。






歌い終えると、本山君は、ふっ…と息を吐き、こちらを向いた。

その強い瞳に、私はドキッとして思わず眼を逸らした。



「あ、えっと…よかったよ、本山君」
「ありがと、。つーか、伴奏ありがと」
「いや、このくらい平気だよ」



ホントは凄い時間かかってるけど、そのくらいは見栄を張っちゃおう。

ふと顔を上げると、本山君の真剣な表情が目に飛び込んでくる。


今度は何故か、目が離せなかった。





、この歌知ってる?」
「いや、あんまり…」
「この歌、アマリッリっていう人を想って歌ったやつなんだってさ」
「へぇー…」
「最後のフレーズ、“アマリッリは私の愛である”と…って歌詞らしいんだよ」
「そうなんだ…凄い、情熱的だね」

「“アマリッリ”が、“”だったら…どうなると思う?」
「………え……?」

「イタリア語、覚えんの大変だったんだぞー。に聞いて貰う為に、すげー練習したんだからな」
「あ、あの、本山く……」


「キャラじゃないとか…笑うなよ、。オレの告白を、さ…」














少しだけ顔を赤くして言う本山君の問いかけに、

私が頷いたのは、言うまでもない。




恥ずかしそうに、だけど、とびきりの笑顔で、手を差し出してくれた。



右手と右手がつながれた瞬間、


私と彼の“特別”の始まり。







『アマリッリ』はいい曲ですよー。
(自分は1〜2回くらいしか歌ったこと無いですが…)
多分、ホントはソプラノな歌だとは思うのですが。
イタリア歌曲って結構、女の人を想って歌う歌が多いんですよね。
その中でも『アマリッリ』は激しく悲恋っぽくもなく、綺麗な曲なので、此処で使いました。

この話はぶっちゃけ、本山に歌ってもらいたかっただけです(笑)
そして私が少し思いつめたから書いてみただけです(笑…っていいものか)

そう言えば、此処では音楽室の描写とかは殆どありませんが。
私の中で、この2人が練習してた場所は、ウチの高校にある練習室をイメージしてました。
でも、普通の高校に練習室はないよな…と思い、そのあたりの描写は曖昧にしてます。
(寧ろ、一切書いてないですよね…)

本山裕史が好きです!(何)
今回は適当な話になっちゃったけど、また改めてちゃんと書きたいです。
左利き話とか、書きたいな…(左利き萌え/笑)


2008/2/20  東雲


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