島崎慎吾と言えば、私の友達の彼氏だった。

頼れるし、カッコイイし、私なんかより全然頭いいし。
と並んでて、申し分ない人だ。


私とは友達だ。

は学級委員で、入学当初友達がいなかった私に気を遣って話し掛けてくれた。
その時から、私とはよく行動を共にするようになった。
勿論、には別の友達がいたし、その子ともよく喋っていたりした。
多分お互い親友ってわけじゃないけれど、でも、仲は良いほうだと思う。
それでも、移動教室とか、2人組になる時は、よく傍にいてくれた。

そんなに感謝してたし、私は彼女が大好きだ。


島崎君はカッコイイし、に彼氏が出来ると一緒に喋れる時間も減る。
少し悔しさみたいな、何と言うか…嫉妬に似た思いを抱いたりもしたけれど。

が島崎君と付き合う事になった時も、誰よりも喜んだ。



『私、慎吾と別れたんだ。この前の慎吾の試合見てたら、ピッチャーの高瀬君の事、気になっちゃって…』



その時、私が真っ先に考えたのは。

が高瀬君と付き合う未来ではなく、島崎君の気持ちだった。











元からクラスメイト…特に男子には、別段興味が無かった。
男子と喋る事なんて無いと思うし、名前を覚える必要も無いと思っていた。
だけど、こういう時、やっぱり困るみたいだ。

そう言えば、私が最初に覚えたのは、やっぱり島崎君だった。

の彼氏、だから。
島崎に告白してオッケー貰っちゃった、と嬉しそうに話すが、印象的だった。
私も良かったね、と言って、慌てて『島崎君』をこっそり捜した。


化学の時間、先生にモル濃度の問題を指された『島崎君』は、あまりに格好良すぎた。


さすが、の好きな人、そして彼氏になる人だ、と思った。
この人なら、を守れると、いや、守るべきだと思った。

なのに。



未だに、信じられない。
と島崎君が別れてしまった理由が。

今年の夏の予選、1回戦で負けてしまったけれど、私はと一緒に観に行った。
その時、が島崎君よりも高瀬君を気になってたなんて、俄かに信じがたい。
一生懸命、慎吾、と叫んでいたには、島崎君しか見えていないって思っていたのに。

2学期入ってすぐだった。
に、島崎君との事を報告されたのは。


夏が終わって、別れを告げられた島崎君は。

その時、どんな顔をしたんだろう。





++++++






「……島崎、君…」



やっと学校生活の流れに乗ってきた、9月も中盤に差し掛かったある日の昼休み。

志望校を固めきれず悩んでいた私の元に、島崎君がやって来た。



「どうしたんだよ?」
「え、いや…島崎君こそ、どうしたの?」

「オレ?オレはと一緒に昼食べようと思って。中庭でも行かねぇ?今日はわりかし涼しいし」



な?、と笑う島崎君に、私は曖昧に頷いた。
机の横に引っ掛けていた、コンビニで買ったお昼ご飯を手にとった。
私の準備が出来たのを確認すると、島崎君は教室を出て、下駄箱へ向かった。
その3歩後ろを、私は追った。

その背中は、決して明るくは無いけれど。

悲しみや、後悔で彩られた様子も無かった。








は、いつも昼はコンビニか?」
「最近お母さんが忙しくて、今朝は寝坊しちゃって。それでコンビニで買ったの」
「ふーん。は作ったりしないの?」
「たまーに作るかな。でも、育ち盛りの弟が2人もいるから、栄養を気にしたお母さんのお弁当がいいみたい」
「そっか。あ、オレも買った弁当だけど、何か食いたいのとかある?」
「特に無いよ。買ったおにぎりで充分」



今日の島崎君は、如何でもいい事を細かく話題にしていた。

今日の、とは言え、今学期初めての島崎君と言える。
何だか、夏休み前と印象が違う…と言うより、何か違和感を感じる。

こうなると、の事も、無闇に口にしてはいけないと思った。


そう言えば、島崎君の話をされて以来、と一緒にお昼ご飯を食べていない。
休み時間になると、はいつも何処かに消えていた。
……高瀬君のとこ、行ってたのかな。





?聞いてる?」





突然耳元で島崎君の声がして、身体はビクッと過剰に反応した。
恐る恐る島崎君のほうを見ると、何故か真摯な表情で此方を見ていた。
普通は見る事無いであろう、その表情に少しドキッとした。

今日の島崎君は、一体どうしたのだろう。



「……島崎君?」
「いや、別に…」



そう言って、また島崎君はお弁当を食べる手を動かす。
それに倣って、私もまた次のおにぎりの包みを開けた。





「なぁ………」

「何、島崎君」

「……なんか、苗字呼びって、そんな親しい感じしないよな」

「まぁ…そうだね」


「……オレ、の事『』って呼んでいい?」





突然の提案に、残り一欠けらだったおにぎりを、地面に落としてしまった。
あーあ、勿体無い、と、島崎君はそれを拾い上げて、自分のお弁当の蓋に乗せた。

きちんと乗った事を確認すると、島崎君は再び此方を見る。



「ダメ?」



ほんの少し、目を細めて言う島崎君を見て。

私は、黙って頷く事しか出来なかった。












優しい声音で、私の名前を呼ぶ島崎君を見て。

私は、が昔言ってた言葉を思い出した。
アレは確か、付き合い始めて2ヶ月くらい経った頃だった気がする。




『慎吾、なかなか私のこと「」って呼んでくれないんだよね』








遂に慎吾サン夢です…。
アンケートで慎吾サンって意見が結構あったので、やっとお答えできた感じです。

最初は泉君で書いてましたが、何となくしっくり来なくて慎吾サンになりました。
慎吾サンになった途端、どんどん暗くなってきましたが…。
短期連載なので3〜4話で終わらす予定です。

どうかお付き合い下さい!

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