島崎君は、普通だった。
とてもフラれたとは思えない表情や、行動、言動。

それは、私を安心させ、それと同時に困惑させた。

当たり前のように、私の隣にいる島崎君。
それを受け入れつつある自分。


そして、私と行動を共にしなくなった、


島崎君は、にフラれた。
は、高瀬君が気になっている。

それは確かなはずなのに。








。帰ろうぜ」
「島崎君」
「帰りにどっか寄ってかね?オレ、腹減ったし…」

「し、島崎君!」



周囲の目が此方に向いている事は、重々承知だ。
何せ、と島崎君はクラス公認のカップルだったんだから。

それが今、の彼氏だった島崎君が、の友人である私と行動を共にしている。

可笑しいと思わない人のほうが少ないだろう。
私はそれが、凄く怖い。


何時の間にか、このクラスで私と島崎君は、確立された存在になっているのが、凄く怖い。





「………」





悲しそうに笑う島崎君の手が、肩に乗る。
そして、ゆっくりと彼の口が、私の耳に近付いた。

その言葉を聞いた時、あぁ、遂に…という思いになる。





―― の知りたい事、話してやるよ。
















約30分後、私と島崎君はカフェで向き合う事になる。



「オレはコーヒーとミルフィーユ」
「私は別に…」
「何か食っとけよ。ケーキとか普通に好きだろ?」
「好きだけど…」
「じゃあ食っとけ」
「……アールグレイとチョコの…」
「ん。了解」



島崎君は、本当に傷付いたりしていないのだろうか。

普通、フラれたら辛かったり、悲しかったりしないのかな。
誰かと付き合うとか、そう言う経験が全く無い私にとって、それは想像にしか過ぎないけれど。

に島崎君と別れたって聞いた時、島崎君の事が心配で仕方なかった。

だから私は、島崎君を受け入れていた…はず。



は、オレに何が聞きたい?」

「……………」



聞きたい事は、沢山ある。

でも、真っ先に聞きたいのは、やっぱりこれだ。





「島崎君は…にフラれて、傷付いたりしてないの…?」





この質問は、島崎君を傷付けると思う。
でも、どうしても訊きたかった。

今、こうして飄々としている島崎君が、もし演技なら。

泣いてもいいのだと、伝えたかったから。





「………、に…聞いてないわけ…?」





しかし、返って来た答えは、私の予想とは大きく違っていた。

傷付けてしまったはずの島崎君の表情は、驚愕の色を浮かべる。
私、何か変な事、言った?



「聞いたよ…聞いたから、島崎君を心配して…」
「は?何でから聞いてんのに、オレを心配すんだよ」

「な、なんでって…島崎君、にフラれ………」



可笑しい。

フラれたであろう島崎君を心配して、何で島崎君が驚くの?





「オレが、に、別れようって…」





、に?

が、島崎君にフラれたって、事…?


そんな、、一言も…





『私、慎吾と別れたんだ。この前の慎吾の試合見てたら、ピッチャーの高瀬君の事、気になっちゃって…』





だって、が高瀬君の事気になったから、別れたって事じゃないの?

完全に混乱しきった私を、島崎君が心配そうに此方を伺う。
テーブルの上に置かれた私の手を、少し体温の低い島崎君の手が掴んだ。



に、何て聞いた?」
「……ピッチャーの…高瀬君が気になっちゃって、別れたって…」

「……違う。オレが、を…をフったんだよ」



今更、気付いた。
きっと、高瀬君を気になったと言ったのは、のプライドだ。

友人である私に見栄を張って、何が悪い。





「………」





涙が溢れた。
あの子の強がりに、私はどうして気付けなかったんだろう。

そして、今私が島崎君と一緒にいる事。

が私から、離れていく理由。


の幸せよりも、島崎君の気持ちを思った私は、彼女を裏切ったも同然だ。





…もう一つ、真実を教えてやろうか…」

「な、に……」

「今後オレを避けないって、約束してくれる?」


「う、ん……」





避けない約束、それは、島崎君の中と言う閉鎖的空間に居座る、充分すぎる条件。

答えは、残酷にも決まりかけていた。






「オレはが好きなんだよ」






少しだけ、苦い顔をした島崎君。


そして、島崎君の手に掴まれた私の手が、何故か、凄く熱い。








とってもベタな展開…。

この話を書く時、ちょっと悩みました。
だって、さんがあまりにも可哀想で…。
この『さん→慎吾サン→さん』ラインの展開が…!!

でも、友達に彼氏が出来ると自然にその彼氏とも仲良くなったりしますよね。
私も…友達の彼氏に散々文句言ったり、罵り合いしましたが…仲良くしてました、一応(笑)


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