好きか、嫌いか。
付き合うか、付き合わないか。
幸せか、不幸せか。
友情か、恋愛か。
恋してるのか、愛してるのか。
友達か、親友か。
選ぶも選ばないも、私次第。
「それじゃあオレ、行きますね」
高瀬君は、2限終了のチャイムと同時に屋上を後にした。
2限と3限の間の休みは、少し長め。
今から行っても、授業には充分間に合うだろう。
3限…政経だっけ。
ヤバイなぁ…先週のプリント、今日答え合わせだっけ。
プリント、誰にも見せてもらえないかも。
でも、大切な答えは、今日、高瀬君に貰った気がする。
「」
聞き慣れた声のする方向へ、視線を向ける。
屋上の入り口に、息を切らした島崎君が立っていた。
「…島崎、君……」
「……お前、ホントに泣いてんのかよ…」
島崎君は、先ほどまで高瀬君が居た場所に座る。
そして、私の手をそっと握った。
この前触れた手とは対照的に、島崎君の手はとても温かかった。
「準太が、屋上でが泣いてるって言ってきて…」
「……高瀬君が…」
「準太、『自分が泣かした』って言ってたけど…何言われたんだよ」
「……高瀬君に泣かされた訳じゃないよ…」
高瀬君には気付かされただけで、泣かされた訳じゃない。
いや、高瀬君の優しすぎる言葉に、泣かされたのかもしれない。
何か言おうとして、でも言葉が続かなくて。
私は、島崎君の体温を感じたまま、ただ黙っていた。
何十分経っただろう。
私の手を握る島崎君の手に、力が入った。
「オレはが好きだよ」
聞きたかった言葉。
聞きたくなかった言葉。
それでも、望んでいた言葉。
「オレ、に告白された時、の事好きになれると思ってた」
「ぶっちゃけるとさ、オレ、とが練習見に来てた時から、の事気になってた」
「それでもと付き合ったのは…ホント、自分でも最低だと思う。でもさ…」
「好きになれるって思ったのと同時に、と付き合えば、その分と話す機会も増えるんじゃないかって…思ったから……」
握っていた手を離し、そして今度は正面から私を抱き締めた。
私の顔は島崎君の肩にぴったりとくっついて、彼の表情が見えない。
でも、確かに震えている、島崎君の身体。
「に、さ。オレが別れようって言った時、『が好きなんでしょ』って、言われた」
+++++
『……慎吾は、が…好きなんでしょ?』
『………』
『私、ずっと慎吾見てたから…慎吾が見てる人、分かっちゃって。でも、慎吾がの事好きでも、私の傍にいてくれたら、って思ってたから…』
『…』
『お互い、色々隠しながら付き合ってたんだね。……こんなんじゃ、上手くいくはずないよ…』
一生懸命、笑おうとしていた。
笑おうとしているのに、頬には涙が伝う。
『、いい子だよ。地味で目立たない子だけど、凄くいい子』
『……あぁ…』
『でも、私この先と仲良くする自信は無いよ。は好きだけど、は慎吾を奪った人でもあるから…隣で笑ってる事は出来ない、かな』
『…オレ、色んなもん壊してるな……』
『仕方ないよ。人を好きになるって、そう言う事だもん。だけどさ、これだけは約束してくれる?』
『 もう私はの傍にいられないけど、その分慎吾が、を必ず捕まえていてね…』
++++++
「…っ……」
は、優しすぎる。
聡い彼女の事だ、きっと私の気持ちにも気付いていたんだ。
辛くて、苦しくて、悲しくて、は色んなものを憎んでもいいはずなのに。
私に、島崎君に、幸せを残してくれた。
「…オレ、人間として最低だと思うし、に残酷な事した」
「……島崎、く……」
全身の骨が折られそうなほど、強く抱き締められる。
「でも、誰に蔑まれても、罵られても。オレは、が好きだ…が、欲しかっ……!」
「…島崎、君っ……」
島崎君の声が詰まって、私の首筋に水滴が落ちる。
瞬時に彼の涙だと気付き、私も後を追うように、また、涙が溢れてくる。
人は、誰かを傷付けなければ幸せを得られないのかもしれない。
でも、人は自分が傷付いても、誰かを幸せにする事が出来る。
後者を選んだは、どんな想いだったんだろう。
そして、私は。
の為、と言ったら、ただの偽善になってしまう…だから。
自分の意思で、島崎君と、一緒にいたいって、強く強く願った。
そして私たちは、傍にいる事を誓い合う。