ぶっちゃけ、私は生まれてから何かを一生懸命やった記憶が無い。
いや、無いわけではないはずだけど、周りに認められるもんじゃないと思う。
だけど私、何かやらなければと、思ったわけです。
田島悠一郎の、16回目の『おめでとう』に向けて。
誰が嘲笑う、青すぎる僕等を。
― The day before
いや、ホント真面目に忘れてた訳じゃないんですよ。
だから今更切羽詰って、悠一郎に渡せるものを考えてる訳じゃなくて。
寧ろ、この何年も、逆に何を渡したらいいかわからなくて。
悠一郎はいいよなー。
だって私の誕生日には、『幼馴染』の私に何かくれるんだから。
(去年は確か、コンビニで売ってそうなシャーペンだった!)
でもさ、私は違うんだよね。
ここ何年も、ずっと悩んでる原因。
幼馴染の田島悠一郎ではなく、私の好きな人である田島悠一郎に何か渡したいのだから。
「阿部ぇー、ちょっとアンケートいいッスか」
「何だよ、」
「面倒臭そうに言うなって、マジで。こっちは真剣に悩んでるんだからさぁ…」
「ふーん、が悩むなんて、ただでさえ面倒臭い奴がもっと面倒臭くなるな」
「ねぇー…こっちはマジなんだって!!」
至極如何でも良さそうな阿部をとっ捕まえて、私は粘っていた。
もうホント、彼を頼るしかないんです。
ぶっちゃけ頼れるのは泉だとは思うんだけど。
泉の近くには、ハッピーセットの玩具の如く、悠一郎や三橋君(三橋君には自然と君付けしたくなる…)、更に浜田サンがいる。
万が一悠一郎がいなかったとしても、残り2人はいるだろう。
秘密を知った途端、絶対キョドるであろう三橋君に、うっかり口を滑らしてしまう確立が80%超える浜田サンだ。
無理があるよね、うん。
6組所属の私にとって、1組や3組は危険すぎる遠出だからね!
(あー…でも本音を言えば、栄口様が一番頼れると思うけど!阿部で妥協する!!)
ってなわけで、私には阿部しかいない。
マジです!って態度を見せたら、少々阿部は本気になってくれたらしい。
顔つきが変わった…と言うより、やっと私を見てくれた。
(ホント失礼な奴だなぁ、オイ。言わないけど)
「何?何かあったわけ、」
「よくぞ聞いてくれました!それでこそ阿部!副主将ーっ!」
「(うるせーな)で、何だよ。定期テストの時期じゃないって事は、どーせ田島の事だろ?」
「そう!明日は悠一郎のお誕生日じゃないですか!16回目の…」
「……あぁ、そうだったな」
「(コイツ忘れてたな…)で、阿部さ。悠一郎が何か欲しいとか、誕生日に向けての意気込みとか、聞いてないかな?」
なんでもいい。
ヒントが欲しい、ヒントが。
ここ何年かプレゼントを渡せなかった私が、堂々と何かを渡す為のヒントが。
阿部は暫く考える。
考える、考える、考える。
(……目を開けたまま…寝てたりしないよね、阿部…)
たっぷり2分38秒待った後、阿部は口を開いた。
ちょっと、言いにくそうに。
「………三橋ン家でやる誕生会が、楽しみだ、って…」
これはキツイ。
私の体は、ふらーっとそのまま右に傾く。
誰かにぶつかる直前に、阿部が支えてくれた。
「っ!?」
「あー、いや。ごめん、阿部ぇ…」
「……イヤ、オレも無神経だったな」
「仕方ないよ…阿部が言ったのは、きっと真実だもん…」
「…」
やっとこさ、体勢を立て直す。
あぁ、地面に向かって私の体重…もとい重力がかかるのを感じる…。
三橋邸でやる誕生会に、私は全く関係ない。
イコール、幼馴染である私って、結構どうでもいい存在…?
「………あ、阿部…」
心配そうに覗き込む阿部を見て、あぁ…コイツ実はいい奴なんだよなー…とか、呑気に思った。
ぶっちゃけ普段は悪魔みたいな奴だけど、実は凄い優しい奴なんだよね、阿部って。
そんな阿部の優しさに感謝しつつ、そして悠一郎への恨みを脳内で復唱しつつ。
阿部に一つ、お願いをした。
「明日の放課後までに、悠一郎宛に手紙だけでも書きたいんだよ…」
「……」
「だから、その日は先生にさようならしたら、すぐに7組行くから、それをこっそり三橋邸での誕生会で渡して欲しい…」
「それくらいならしてやるよ。今回はオレもちょっと悪いと思ってるし」
「いや、ホントありがとう、阿部……阿部ぇぇぇぇぇっ…」
うわーん、と泣きながら、阿部に抱きついた。
阿部は私に離れろと言いたげに左手で私を押し、右手でそっと私の頭をぽんぽんする。
明らかに、阿部の心では葛藤があった…。
(それもまた悲しい…素直に慰めてくれてもいいのに…)
++++++
うーん、私の想いは、どうやら空振りらしい。
折角ここ数年分の愛とごめんねを込めて、プレゼントを渡そうと思ったのに。
当人は私そっちのけで、三橋邸ですよ、三橋邸。
まぁそりゃ、ただの幼馴染(しかもここ数年プレゼントも貰ってない)と祝う理由なんてないんだけどさ。
それでも、去年は一応、練習から帰って来た悠一郎が、窓から顔を出して「祝えよー」なんて言ってたりした。
それも、今年はないんだ…。
あーあ、なんか泣けてきた。
紙とペンを目の前にして、いざ書こうとして。
何も出てこないなぁ…とか思ってたら、書く事の前に涙が出てきちゃったよぉ…。
「悠一郎ぅ…」
何でも知ってる。
昔からやってきた、殆どのイタズラだって言える。
悠一郎の凄かった試合だって、全部ソラで言えるし、実況も解説も出来る。
一緒に見に行った野球の試合、全部スコアも投手もホームラン打った人も言える。
悲しいけど、悠一郎の元カノだって、全員言える。
凄く凄く好きで。
でもきっと、こんな風に可愛くない、寧ろ友達には「面白い」と言われる存在だから。
悠一郎にとって、私はいつまでも『幼馴染』なんだ。
阿部、聞いてよ。
去年とかはね、プレゼントは渡せなくても、色々考えたんだよ。
書きかけの手紙とか、いっぱいあんたんだよ。
今年は、ちゃんと何か渡したかったんだけどなぁ…。
阿部、頼むから。
私の想いが空振りしないように、せめて内野ゴロとかでもいいから。
ヒットしなくていいから、頑張って書こうと思ったこの手紙を、届けて欲しい。
田島君生誕記念です。
思えばこのサイトで誰かの誕生日とか、祝った事なくないか…?
いっぱい作成途中あったのになぁ…。
3話連続の予定です。
どうかお付き合い下さい!