練習後に催されたオレの誕生日会は、あっという間に終わった。

利央と迅のケンカに発展した漫才とか、タケのサプライズプレゼント(中身もサプライズだった…)とか。
和サンや慎吾サン、モトサンやヤマサンなんかも顔を出してくれたり。

とにかく、ホントに楽しかった。






「で、が後片付け係ってワケか…」
「うぅ…ごめん……」
「ジャンケン全敗。ある意味天才だな」
「煩いなぁー!私だって、まさか負け残った最後の一人しか残んないなんて、聞いてないしー!」



はジャンケンに負け続け、後片付け係になった。
ある意味、ジャンケンに負けるのは、の特技だ。
オレはがジャンケンに負けたのを、見た事がない。
あ、利央は負けてたっけ。

でも、知らなかった。

今日が負けた事には、意味があるって事を。


も、オレも…













「よっし、大体片付いたー。準太、誕生日なのに、残ってくれて…ありがとね」
「別に。オレはと帰んだし、待ってんのは自然だろ」
「うん…でも、ホントありがと。そだ、紅茶でもいれよっか?まださっきのドロップティー、残ってるし…」



カチャカチャと用意し始めるの後姿を見ながら、ふと思う。

付き合って3ヶ月で、わかった事がある。

は、一つ一つ丁寧に感謝をする。
どんなに小さな事でも、きちんと。
それは簡単そうな事だけど、なかなか出来ないと思う。
そこがまた、のいいところだ。


オレはふと、イイコトを思いついた。
今日は、のいいところを、利用させて貰う。

オレの誕生日なんだから…とか、どこかで無理矢理自分の考えを正当化して。





「……悪いと思ってんの?」
「? うん、当然。本来残らなくていいのに、残ってもらってるんだし…」

「じゃあ、キスでもする?」





冗談っぽく、言った。
勿論、本気だけど。

拒否されるのが怖くて、ノリでしか言えない。


は手にしていた空のペットボトルを落として、暫く硬直していた。
視線はまっすぐ、オレに向けられている。

オレも黙って、を見た。
後悔の二文字が、脳裏に過ぎる。


オレが、「嘘だよ」と、嘘を吐く寸前。

が、ゆっくりと、口を開いて…。






「じゅ、準太が、それを、望んでるんだった…ら……」





真っ赤な頬、売るんだ瞳。

オレがの唇に吸い込まれるのに、時間はかからなかった。


一瞬の出来事。
でも、口付ける瞬間。

の瞳がゆっくりと閉じていったのが、はっきり映った。


スローモーションみたいに、ゆっくりと離れた身体。
完全に離れる前に、オレはの身体をしっかりと抱き締める。














「……緊張した?」
「…………そりゃ、まぁ…」
「…まぁ、オレもだけどさ……」
「…………嘘…だ……」
「いや、マジで…」



初めての感触に、頭がくらくらする。
色々想像していたのと同じようで、どこか違う。

なんだろう、この、不思議な感覚。



「…なんか、、ありがとう…」
「え?なんで…」

「いや、オレのワガママに、こたえてくれて…?」



ホント、どうしてだろう。

付き合ってれば、キスするくらい当たり前のことなのに。
今はどうしようもなく、に感謝したくて。
思わず、口から出てきてしまった言葉。

が、移ったのか?



「それなら、私のほうが“ありがとう”だよ、準太…」
「は?なんで?」



オレの腕をゆっくりと解き、ふわりとは笑う。





「10年前でも、20年前でもなく、17年前の今日、生まれてきてくれてありがとう」




















手を繋いで帰るなんて、いつもしているのに。

特別な日だったあの夜は、何故かの体温が熱く感じた。



家に帰って、携帯を開けば、慎吾サンからの新着メールが1件。





とのファーストキスはどうだった?ある意味、オレらからの最高のプレゼントだぞー(笑)”





どうやら、謀られたらしい。

語尾の“(笑)”に少々怒りを覚えつつ、


オレは自然と上がる口の端を、元に戻す事が出来ない。


返信メールを打つ手は、不思議とすらすら動く。





“教えません。”






― 10年前でも、20年前でもなく、17年前の今日、生まれてきてくれてありがとう


それは、オレも同じ。

そしてオレも、に、伝えなきゃいけない。




― 今日この日、オレの傍にいてくれてありがとう






“感謝”をテーマにした誕生日夢になりました!
(うっわ、凄い後付だな…)

悩んで悩んで、結局出来上がったのがコレ…。
準太誕生日夢として書いた中で、4番目に書いた話がコレです。
結局他は全然まとまらず、書き途中で終わってます。
なんでコレが最後まで書けたのか…きっと、中途半端で終わってるからだ。

実は謀られてた準太ってのが、面白くていいかなーって思って書きました。
付き合って結構経つのに、チューすらしてなかったとか…可愛くないですか?(笑)
ちょっと“特別”を意識して、ヒロインも流された感じありますけどね(笑)

日頃“感謝”って、自然にやってるようで出来ないじゃないですか。
私も小さな事でも感謝するような人になりたいです…。
なかなか出来ないんですよね、ホントに。
ついつい余計な一言とかつけちゃったりして、ちゃんと“感謝”って出来ないじゃないですか。

だから私も。
読んで下さった皆様に、心から“感謝”しています。


08/02/02  東雲


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