「準太」

「………」

「準太」

「……な、に…」



「暑いよ、準太」

「………知ってる、から……」








テレビでは、高校球児たちが、太陽の下で白球を追う。


去年は、スタンドで観た。

あの球場が一つになる、歓喜に満ちた声も。
打球を捕らえた瞬間の、気持ちいいくらい響く耳に残る音も。
懸命に走る球児が、汗を拭って声を出す姿も。

全て、あの場所で、自分が体感したんだ。



今年の夏は、違う。
スタンドにいるわけでもなく、テレビの前で二人で騒いでいる訳でもなく。

こうして、クーラーもつけずに、二人で何も言わずに見ていた。

体育座りする私に、凭れる準太。


耳に入るのは、スピーカーからの歓声と、外から聞こえる夏の音だけ。

感じるのは、気だるい夏の暑さと、それ以上に熱い…準太の身体。



あぁ、何だか。

これでもかと言うほど、夏だった。







「準太」
「…何………」

「凄い、夏だよ準太…」

「……………」


「外、凄い夏だよ…」








何故だろう、私たちだけ。

このまま夏に、取り残されてしまいそう。


いや、もうずっと取り残されているのだろう。


タケくんの打球が、ホームに帰って来た瞬間。
迅くんがホームに突っ込んで来た瞬間。
捕手が帰って来た球を抑えた瞬間。
審判が、手を上げてアウトと叫んだ瞬間。


あの瞬間から、動き出す事無く、私たちは夏に取り残されているんだ。

あの場所に、全てを置いたまま、動き出す事無く。



スピーカーから、また歓声が上がる。

ランナーが挟まれた隙に、どちらかが1点先制したらしい。
驚きと喜びが入り混じる球場、笑顔の球児。

そして、憎らしいほどの快晴。


私の手を握る準太の手が、また、少しだけ強くなった。








「………」

「……準、太…?」


「……オレ…オレ、さ……」





「…夏が、怖いって…初めて思った……」























これでもかと言わんばかりに

下から突き上げられるような、夏


見上げれば、こんなに綺麗な空が広がっているのに




今年の夏は、長くなりそうだ






久々に書いたら、自分でもびっくりするくらい悲しめな話になりました…。

高校野球見ていると…色々観てると考えちゃいますよね。
そして不思議と書きたくなった桐青ネタ。
あの準太の表情を思い出すだけで、ホント胸が…ぐーっと来ます。

予選で負けた子たちって、どうしてるんだろう…って考えたりしました。
特に今年は地元の予選大会を見て、色々思っちゃいました。
投手の子の話題を耳にして、準太と重ねたりしてたら…こんな話になっちゃいました。

ただでさえ暗い話が多いサイトなのに…またこんなんですみません。
そして久々だったのに…こんなんですみません。  また頑張ります。


2008/8/7 遙夏

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